はじめに[]
- シゲト
- 皆、出撃してったね……
- サイ
- ああ……なんとか間に合ったよ。三日目ともなるとお昼の日差しでさえ目に染みるなぁ……
- シゲト
- あのさ、前々から思ってたんだけど……
- サイ
- ん?なんだよ。
- シゲト
- 無理してシグナス使い続ける事ないんじゃない?
- そりゃ、スポンサーへの義理とかあるかもしれないけどこっちは命がけなんだぜ。
- スペックの差なんて知れてるし、拡張性ならルタンドだってそんなに変わらないし、
- なにより手に入りやすいじゃん。今あるパーツだけでも2機は組めるくらいだしさ。
- シゲト
- なんでさ
- ……やっぱりスポンサーの圧力?
- シゲト
- “限界値”?
- サイ
- そう、限界値。
- 同じような性能に見えて実際に使うとなると違うんだよ。
- 反応速度の上限やら精密な動作ができるとか……
- シゲト
- つまり……車のオートマチック車とミッション車の違いって所?
- サイ
- そんな感じだな。ルタンドは誰が使ってもそれなりに強いけど、
- 逆に言えばカタログスペック以上の成果は期待できないんだ。
- それに対してシグナスは扱いが難しい代わりに、腕利きのパイロットが乗れば
- カタログスペックで上回る相手でも互角以上に戦える。
- ザフトの機体だけはあるよ。
- サイ
- まあな。……晩飯までまだ時間があるし、暇つぶしにいいか。
各勢力の開発事情[]
- サイ
- モビルスーツという兵器が生まれて約10年。
- 色々な機種が色々な勢力から生まれたわけだが、
- 大まかに分けて三つの流れに分類できるよな。
- どこの事を指しているか、分かるか?
- サイ
- 正解。
- 面白い事にこの三つの勢力の機体にはそれぞれ特徴があるんだよ。
- シゲト
- そうなの?……何が違うんだろ?
- サイ
- 今まで色々な機体触らせてやったのに違いに気付かなかったとは、まだまだだな。
- シゲト
- 不出来な弟子ですいませんね!で、なにが違うのさ。
- サイ
- よく知っているな。
- あそこの機体は凄いぞー。標準以上の火力と機動力を兼ね備えているからな!
- シゲト
- でも脆いんだよね。物凄く。
- サイ
- そうなんだよ。ま、これにも理由があってな。
- M1は地球連合の技術をパク……もとい技術協力の末、原型機3機が完成したんだが
- 基本的な構造はともかく、フェイズシフト装甲はブラックボックス化されていて、
- その製造ノウハウを手に入れる事ができなかったんだ。
- ジンを遥かに凌ぐ装甲を実装するためにも、フェイズシフトの技術が欲しかったんだろうけど。
- シゲト
- ジンを凌ぐ、って言ってもさ。
- そもそもジンの装甲って、別に大したことないんじゃない?
- シゲト
- マジで!?ジンすげえ!
- サイ
- 通常装甲だけで装甲強度をGAT-X級にしようと装甲を貼ったら、
- 機体重量が嵩んで、とてもじゃないが実戦に耐える機動力は獲得できない。
- かと言ってジンと同程度では先発のザフトから開発のイニシアティヴを奪い返せない。
- で、それじゃ仕方が無い、ということで出した結論が「だったら当たらなければいいじゃない」という事なんだよ。
- 軽発砲金属を採用した事で破格の運動性を手に入れたわけだ。
- シゲト
- でも、当時オーブってパイロットが不慣れだったんじゃ……
- サイ
- ああ、そのせいで本土防衛戦の時は悲惨だったよ……。
- ただ、ビーム兵器の標準化の事を考えると先見の明はあったのかもしれないな。
- フェイズシフトのノウハウを手に入れた頃には利点もかなり少なくなっていたし。
- シゲト
- でもあそこの国は先鋭的というよりは極端なイメージがあるなあ。
- サイ
- と、いうと?
- シゲト
- だってさあ、装甲手に入らなくて困ったら「当たらなければどうという事は無い」で
- ビーム防げなくなったら「じゃビームが跳ね返る装甲つくれば無敵じゃね?」だぜ?
- サイ
- 言われてみれば不思議な国だなあ、わが祖国ながら。
- サイ
- で、次は地球連合だな。
- 地球連合は知っての通り最大勢力で殆どがナチュラルで構成されている。
- つまり例外はあるものの個々の技能ではザフトには及ばないわけだ。
- だから必然的に数で押す事になり、一つ一つに力を割く事は難しくなる。
- おまけに身体能力に劣る為に扱いやすい機体に仕上げなければならない。
- と、いう事は……
- シゲト
- 地球連合はダガーやウィンダムの様に癖の無い平均的な機体が多いって事だね!
- シゲト
- えーと、狭くて国力が無いから余力が無くて作れない?
- サイ
- それも理由の一つだけど、なんで疑問符が付くんだ。
- お前の言うとおりサイズ的に統一性の無いモビルアーマーは
- 特殊な設備を新設しなければいけないからな、
- 地球連合で色んなモビルアーマーが登場した第二次大戦時、
- 地力で劣るザフトにそんな余裕はなかったんだろう。
- でも、最大の理由はプラントはコーディネーターの”国”だって事だよ。
- ザフトはパイロットの技量に依存する、モビルスーツの“万能性”を追求する道を選んだんだ。
- サイ
- 正確には「力を注がざるを得なかった」、だな。
- そういう経緯からザフト系モビルスーツっていうのは
- 少数で多数を撃破することを求められていたから、先鋭的な技術を満載しているわけだ。
- ザク、ウィンダム、ムラサメと同時期の主力モビルスーツのカタログスペックを比べたら
- ザクが頭一つ抜けているだろ。
- 極端な例を挙げるならフリーダムとかを思い浮かべてくれれば分かると思う。
- シゲト
- 確かにパイロットの技量に依存するマルチロック機能とか正気とは思えないよね。
- サイ
- で、その「エースパイロットに依存する」発想の究極がインパルス構想だったりする。
- 一人のパイロットがありとあらゆる戦場に対応可能になると言う無茶苦茶なアイデアだよ。
- サイ
- それだけにザフトのモビルスーツは並みのパイロットじゃあ地球連合の無難な機体と同程度か、
- それ以下の性能しか発揮できないけど、エースパイロットに使わせれば
- ガンダムタイプのモビルスーツにだって勝てるポテンシャルを秘めているんだ。
- シンを見れば分かるだろ?
- サイ
- ルタンドは大量に配備して初めてその真価を発揮する機体だからな。
- 少数精鋭と言うことならシグナスは現状俺たちが手に入れる事の出来る最高の機体なんだよ。
- 俺が苦労するだけで皆が死なずに済むのなら安いもんさ。
- シゲト
- (プロだぜ、サイ兄!)
- ……あ、皆から通信だ! 大尉、大丈夫!?
- 大尉
- 『当然だ。ただ奴等、嫌がらせに物資を焼いて逃げやがってな』
- サイ
- 仕方ないさ、皆が無事なら次があるよ。
- 大尉
- 『そう言って貰えると助かる。あとな、非常に言いにくいんだが……』
- 少尉
- 『踏みつけてから足がバチバチうるさいんだが』
- 中尉
- 『とっさに銃身で受けたら壊れてしまいました』
- シゲト
- …………
- サイ
- ……今日、徹夜三日目……さっき修理……終わったばかり……お金……
- シン
- 『俺は壊してないから安心しろ。……リアクティブアーマーをパージしただけだ』
- AIレイ
- 《オプションも一緒に、な》
- サイ
- そいつが一番金と手間かかってるんだよォォォォォォォォ!