- シゲト
- ねぇ、サイ兄……いつも思うんだけどさ、敵のモビルスーツっていつもこっちより2倍とか3倍とかじゃん?
- 今は大尉達やシンが頑張ってるけど、例えば5倍とか10倍とかで攻めてきたら手が回らないんじゃ…?
- サイ
- 何だいきなり、どうかしたのか?
- シゲト
- いや、どうしたのかって、そうなったらどうやって立ち向かうのさ?
- サイ
- どうやってって、モビルスーツの数は絶対に足りないから、生身の人間が矢面に立つに決まってるだろ
- シゲト
- ええっ!?戦車も撃ち抜けないモビルスーツの装甲をどうやって撃ち抜くんだよ?まさかどっかの誰かみたいに素手でやれなんて言うんじゃ…
- サイ
- おま……ずっとモビルスーツの整備してきて、「素手で装甲を撃ち抜く」はないだろ。確かに歩兵がモビルスーツと”普通”に戦っても勝てるわけはないけど、それなりに対抗手段はあるんだよっ。
歩兵の武器[]
- サイ
- まず、普通に考えて生身の人間がモビルスーツに勝てるわけがない。
- で、その人間、つまり歩兵がモビルスーツに対抗するためには必然的にソレ相応の武器が必要になる。
- シゲト
- 武器?えっと、パンツァーファウストとか?
- サイ
- 何で1番目に思い浮かぶのがそんな大昔の兵器なんだ……?まぁそんな類、ようするに対戦車(モビルスーツ)バズーカだな。
- あとは対装甲地雷とか対空ミサイルとか、とにかく歩兵が携行できる物、そして1発で撃破できるものである必要がある。
- シゲト
- 何で1発って限定なの?
- サイ
- じゃあお前がモビルスーツに乗ってたとして、歩兵がバズーカを撃ってきて……運良く生き延びたらどうする?
- シゲト
- そりゃ、残酷だけど機関砲とかで撃つと思うけど…。
- サイ
- その通り。だから逆に歩兵としたら仕留め損ねる=死なんだよ。それに基本的に歩兵が携行できる対モビルスーツ用の武器ってのは1発限りの使い捨てだからなおさらってわけだ。
- シゲト
- なるほど。でもさー、バズーカとか地雷を当てるんだったらモビルスーツに近づかなきゃいけないよな?だったら近づいた時点で撃たれるんじゃ……?
- サイ
- まぁそうなるだろうな。だから歩兵は戦車やモビルスーツに対しては地形を武器として利用することが絶対不可欠なんだよ。
- シゲト
- 地形?
地形の利用[]
- サイ
- じゃあ、今度は逆にモビルスーツや戦車の立場に立って考えてみるか。
- 当たり前のことだけど、モビルスーツは背が高い。普通の森林地帯でも頭が飛び出るぐらいにな。
- シゲト
- たしかに、18mよりも高い木なんてそうそうあるもんじゃないよね…。
- サイ
- そう。そして戦車は背は低く視界が悪い。どういうことかわかるか?
- シゲト
- ゴメン、全然わかんない。
- サイ
- 即答だな……
- サイ
- 要するに、森林地帯でも頭が飛び出るほど背が高いモビルスーツからの視点では森林や塹壕、路地裏といった高い所からだとかえって障害物になる場所に身を隠す歩兵が見えない。
- そして逆に戦車は背が低いが視界が悪いから同様に見えないんだ。
- シゲト
- あっ、てことはそういう障害物をうまく使いながら忍び寄れたらモビルスーツを撃破できるってことか!
- サイ
- そういうこと……と言いたいけど、それだけじゃダメなんだ。
- シゲト
- え、何で?
敵歩兵の存在[]
- サイ
- これまでの大規模な戦闘、なおかつシゲト、お前のような直接の戦闘に参加したことのない者の大半はたぶんモビルスーツ出現後の陸上戦闘に誤ったイメージを抱いてると思うんだ。
- シゲト
- へ?
- サイ
- じゃあ地上での戦い、お前はどういうイメージを持ってる?
- シゲト
- どういうって……モビルスーツが陣地とかをぶっ壊しまくって、それに対抗できるのはモビルスーツしかないとか……
- あとはモビルスーツや戦車ばかりで歩兵はほとんどいなかった気がするなぁ
- サイ
- やっぱりだな。
- シゲト
- え?やっぱりってサイ兄俺が何言うかわかってたのか?エスパーじゃんそれ。
- サイ
- エスパーって……んなわけないだろ
- サイ
- まぁ説明すると、モビルスーツが出現して地上戦闘も例外に無くモビルスーツが主力になったことは間違いない。
- そして、2度の大戦が終わった後設立された統一連合は戦闘の生中継を禁止して、基本的にモビルスーツの戦闘シーンばかりをプロパカンダとして放送してきたわけだ。
- シゲト
- エターナルフリーダムとか?一時期ニュースがアレばっかになって俺の見たかったスポーツコーナーが削られたことがあってさ。
- 邪魔だったなぁ~
- サイ
- 嗚呼、お前がスポーツコーナーしか見ないのは昔も今も変わらないのな……
- シゲト
- すいませんね!不出来なヤツで。
- それでどういうことなのさ?
- サイ
- まぁ怒るなよ。ようするに俺が言いたいのは、モビルスーツ出現後に人々に伝えられた陸上戦の模様は、どれも皆モビルスーツばかりが写ってたんだ。それこそモビルスーツしか戦ってませんと言いたいのかって思うくらいに。
- シゲト
- ……!てことは、実際には歩兵も戦っていたけどそれがニュースで言われなかったから印象が薄いってことか。
- サイ
- 少し違うけど大体そんなもんだ。
- 2度の大戦時ザフトは海軍も空軍も宇宙軍も、勿論陸軍もモビルスーツの比重が9割以上という、モビルスーツ偏向の軍備を進めててな。
- だからザフトには歩兵がほとんどいなかった。
- そんなもんだから、ザフトの戦闘映像じゃ歩兵は全く映っていないんだ。
- けどそれは特殊な例であって、連合ではモビルスーツが登場するまで対モビルスーツ戦闘の主力に歩兵も立たされてたみたいだし、ストライクダガーの大量配備が成功した後でも支援としてモビルスーツにくっついて戦ってたんだぞ。
- サイ
- それで、だ。だいぶ話がずれたけど、さっき何で俺が忍び寄れてもダメなのかと言ったかということの答えが今の説明の中にある。
- シゲト
- いつの間に…?てか何もわかんない……
- サイ
- もう少し学習能力を磨こうな?
- サイ
- ようするに、「忍び込んでもダメ」ってのは、上手くモビルスーツや戦車に近づけたとしても、大抵敵の歩兵が護衛として周りを固めてるからだ。
- そんな所に近づいても大抵発見されてやられる。
- シゲト
- ええ!?じゃあ無駄じゃん。どうするのさ?
- サイ
- 簡単な話だ。モビルスーツと歩兵の連携を分断するんだよ。
- シゲト
- どうやって?
- サイ
- 手段はいろいろある。
- いくつか例に挙げると、まず隠した地雷原に引きずり込んで一斉に爆発させる。
- 上手くいけばモビルスーツも撃破できるし、撃破できなくても周りの歩兵は生身だからひとたまりも無い。一瞬でも連携が崩れるし、自分のことで精一杯になるから周囲を警戒する余裕もなくなる。そこを狙うんだ。
- シゲト
- うわぁ……。
- サイ
- それとこれは高等なテクニックだけど、ラジコン爆弾をモビルスーツの足にぶつけて、バランスを崩したところを歩兵ごと一網打尽にするなんて方法もあるけどな。
- シゲト
- なんか……マジで捨て身って感じだけど、その勇気すげー
- サイ
- まぁもともと歩兵は戦車やモビルスーツに対しては絶対的に弱いから……
- それに――
- ユウナ
- 困ったもんだ……
- シゲト
- あれ?リーダー何かあたふたしてるね?何かあったのかな?
- サイ
- あの…まだ話し中なんだが…
- ソラ
- あ、実はね……東ユーラシアのモビルスーツ隊が攻めてきてるんだけど、こっちのモビルスーツの数が少ないからメンバー総動員で何とかしようみたいな話になってきててね…。
- シゲト
- だったら俺に任せてくれっ!
- ソラ
- うわっ、どうしたの急に?
- サイ
- いや、丁度生身の歩兵でモビルスーツに対抗する方法を話してたんだけど……変に燃えてるなアレ…
- シゲト
- 任せてくれリーダー!俺やるぜ!このちっさい身体でモビルスーツ倒して皆驚かしてやるぜっ
- サイ
- あのな、シゲト。人の話は最後まで聞こうな?
- 今俺が話した、例えば地雷原を利用した戦法だって、準備するにはいろいろ手間隙かかるんだよ。
- しかも敵を地雷原に誘い込むのも敵もいろいろ予想してるからそう上手くいくもんじゃないし、たとえ誘い込めたとしても上手くいく保証はどこにもないんだよ。
- しかも対モビルスーツバズーカでモビルスーツの装甲を撃ち抜くには相当接近しなきゃいけないし、それで仕留められても逆に近すぎると爆発に巻き込まれるし、適度な距離でも運悪く避退する前に弾薬に引火したら絶対に助からない、凄く危険なんだぞ?
- お前にそれでもやろうって度胸あるか?
- シゲト
- へ?マジすか?う……
- ユウナ
- え?本当かい?いやぁ、君たちメカニックは本来戦闘員じゃないし、人数的には足りなくなるけど仕方が無いと思ってたんだけど、本当にいいのかい?
- それに実は地雷原の構築が上手くいってなくてねぇ――
- シゲト
- あ、いや……やっぱいいです。ハイ
- サイ
- やれやれ…